有安杏果 弾き語りツアーFINAL。たった一人で全20曲を歌い切った可憐ながらも力強いステージ

ライブレポート | 2021.04.30 18:00

有安杏果 サクライブ 弾き語りツアー2021
2021年4月25日(日) KANDA SQUARE HALL

有安杏果が4月25日(日)に東京・KANDA SQUARE HALLにて、自身初となる弾き語りによる全国ツアー「サクライブ 弾き語りツアー2021」のファイナル公演を行った。

毎年春の恒例として立ち上げた「サクライブ」はソロアーティストとしての活動を再開した2019年から開始。2020年はコロナの影響で延期・中止となり、11月に開催された渋谷公会堂公演のみの実施となり、2021年1月からスタート予定だったフルバンドによる全国ツアー「有安杏果 Live Tour 2021“雫ノ音”」は二度目の緊急事態宣言を受けて、同年11月に延期が決定。そして、同年4月3日から宮城・仙台PITを皮切りに、北海道、大阪、香川、広島、福岡、愛知、東京と全国8箇所9公演に及ぶ本公演を開始。9月に延期となった大阪公演を除く8公演となった弾き語りツアーを見事に完走した。

ライブは<本当はジャズなんて弾けやしないくせに/君の前ではちょっとムチャしちゃうんだな>と歌う難曲「愛されたくて」で幕を開けた。温かい拍手に迎えられてステージに登場した有安が椅子に座り、笑顔でアコースティックギターをかき鳴らし始めると、場内からは自然と手拍子が沸き起こった。速いパッセージでコードチェンジも多い楽曲だが、ギターの演奏に窮することなく、歌声でもニュアンスや表情をつけ、スキャットも披露。足でリズムを取りながら、歌声とギターのヴォリュームでメリハリをつけて切ないストーリーを語った「Catch up」では観客との一体感も実現。声を出せない状況だったが、冒頭の2曲だけでも有安と一緒に1つのライブを作り上げていくんだという温かい雰囲気が伝わってきた。

「ようこそ、『サクライブ2021』ファイナル! 最後まで、忘れられない時間を一緒に過ごしましょう。よろしくお願いします」

みんなの前で歌うことが楽しくて仕方がないという喜びに満ちた表情でのあいさつを経て、「言葉遊びをしながら恋の別れのシーンを描いた」という「LAST SCENE」ではボディを叩いてビートを繰り出し、「遠吠え」では荒々しくハードにプレイ。自粛期間中に小谷美紗子や玉田豊夢から回ってきた“歌のバトン”で披露した高橋優「福笑い」のカバーでは、「強いメッセージがこめられてる曲だなと思いました」と語り、今、みんなに届けたい思いをストレートに放つと、場面は一転。「裸」は暗闇の中で、怒りや悲しみ、悔しさといったダークな感情をピアノにぶつけたが、「TRAVEL FANTASISTA」では一気に光を取り戻し、音楽の弾力性を感じさせる歌と演奏で観客の心を弾ませた。「もう1曲、楽しい曲をやりたいと思います」と話しながら、再びアコギを手にした有安は、「恋が始まる時のワクワクする女の子の気持ちを描いた」という「Do you Know」と「Another Story」という勢いのあるアップテンポのナンバーを連発し、ホールの熱気を上昇させた。

また、中盤には換気タイムが設けられ、有安は全国ツアーで食べたご当地グルメを振り返りながら、この春に26歳になったことを報告。「大切な家族や友達。そして、今回はステージ上では一人で心細かったですが、一緒に回ってくれたスタッフさん。応援してくれるみんなに感謝の気持ちをいっぱい込めて歌いたいと思います」と語り、日替わりの曲として、Superfly「愛をこめて花束を」をカバー。<あなたがいつも笑えていますように>という「福笑い」に続き、<笑い合える今日の方が幸せね>というフレーズが真っ直ぐに胸に飛び込んできた。バンドセットよりも、歌の言葉やメッセージ、ストーリーが伝わりやすいのは弾き語りライブならではの魅力だろう。この日は“笑顔”というワードに明確な意思が込められていたように思う。

「今日でツアーが終わっちゃう。寂しいです」と語り出した彼女は、「次、やる曲はすごくネガティブな自分の時に描いた曲で、自分なんて必要ないんじゃないかって、どうしても思ってしまう。そんな気持ちの時に生まれた曲です。だけどね、こうやってみんなが今日、集まってくれたのもそうですけど、もしかしたら自分の音楽で、聞いてくれる人がちょっとしんどかったことが楽になったり、ちょっと頑張ってみようかなって思えたりできるのかもしれないって、みんなが光をくれました。今日、ほんとに、みんなに会えて、みんなの前で歌えてうれしいです」と涙を流しながらファンへの想いを告げ、深々とお辞儀をすると、ホールはこの日一番の大きな拍手で包まれた。そして、「色えんぴつ」では<ぼくにできることあるんだ>というフレーズをアカペラで心を込めて歌い上げ、「ペダル」では<自分にしか出来ない世界を描こう>と前進する意思を示し、「心の旋律」では<握ったマイクはもう離さない>と熱唱。さらに、「私がもう一度、音楽の道で頑張っていこうという覚悟と決意を描いた」という「サクラトーン」では、場内に満開の桜が咲く中で、マイクを外し、生声で<みんなに良いこと起こりますように>と歌唱。自身の新たな決意を表明するのと同時に、聞き手である私たちに対して、新たな一歩を踏み出す勇気を与えてくれるかのような力強い歌声を響かせ、幸せを運ぶ「ハムスター」からいつもはエレキをかき鳴らすロックチューン「Runaway」で大きく盛り上げて本編は終了した。

アンコールでは元Superflyの多保孝一と共作した、ソロのアーティストしての始まりの曲でもある「feel a heartbeat」をピアノで歌唱。のちのMCで、「あの時が本当にスタートラインだったなって思いました。でも、このツアー、今日で最終日ですけど、何回も何回も歌っても、まだまだスタートラインな気がします。こんな、まだまだな私のことをずっと応援し続けてくれて本当にありがとうございます。これからも感謝の気持ちを忘れずに、みんなと一緒に進んで行けたらいいなと思います」と語っていたが、その歌声はナチュラルで等身大の息吹きがあり、ここから爽やかに飛び立っていくかのような前向きな勢いも感じた。そして、ギターに持ち替え、「初めてのサクライブの時に作った歌です。みんなの悲しい涙を1つ1つ集めて、虹にできたらいいなと思って描きました」というバラード「虹む涙」を歌い上げた後、本ツアーのために作った新曲で、ここまでタイトル未定だった「指先の夢」を演奏する前にこう語った。

「自分が始めてひとり暮らしをした頃の景色を思い出して描きました。このツアーで、みんなとこの曲を育てていけたらいいなと思っていたので、今日までタイトルは(仮)だったんです。タイトル、自分の中で確信に変わりました。『指先の夢』にしようと思います。もう、指先がボロボロで。女の子の可愛い指先じゃなくて。少しでも爪が伸びたらヤスリで削って、弾き続けて。皮が捲れて、また強くなっての繰り返しで。でも、なんか、夢に向かって頑張るってこういうことなんだなって思いました。この指先に、夢がいっぱい詰まってます」

彼女の現在の思いが詰まった「指先の夢」。<不器用だけど君には届けたいんだ><この声、枯れるまで歌い続けたいんだ>とたった一人で歌う有安の姿は、可憐ながらも力強く、そこには弾き語りツアーで得た新たな覚悟と微かな自信が滲み出ているように見えた。そして、ライブの最後に歌われたのは、有安とファンをつなぐ「ヒカリの声」。全てのエネルギーを放出するかのように思い切り歌いきり、場内が眩い光に満ち満ちる中で、初めての試みとなった弾き語りツアーは大団円を迎えた。アコギで15曲、ピアノで5曲。初めてバンドメンバーを携えずに、たった一人で全20曲、約2時間30分に及ぶステージを行った経験は必ず次のツアーへとつながるはずだ。

SET LIST

01. 愛されたくて
02. Catch up
03. LAST SCENE
04. 遠吠え
05. 福笑い/高橋優
06. 裸
07. TRAVEL FANTASISTA
08. Do you know
09. Another story
10. 愛をこめて花束を/Superfly
11. 色えんぴつ
12. ペダル
13. 心の旋律
14. サクラトーン
15. ハムスター
16. Runaway

ENCORE
01. feel a heartbeat
02. 虹む涙
03. 指先の夢
04. ヒカリの声

サクラトーン MV

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